BOOK SOMMELIERS|ひとり出版









WASEDABOOK03.JPG陰で支える奥さまとごいっしょに



佐藤康之

三陸書房社主



「不易を求めて」



「時流」に流されない出版の在るべき姿を追う。
一点一点に本づくりの魂を入れながら、
ビジネスでなく文化としての流儀を貫く。





三陸書房の設立は?

1996年ですから、かれこれ15年目になります。

社名の由来は?

「三陸」は、故郷である東北地方の三陸海岸ではなく、私なりの文明史的な位置づけから「世界」を指しています。

それまではどのようなお仕事をされていたのですか?

1968年、老舗の出版社である冨山房に入りました。
初めは営業部だったんですが、編集部に移りました。

それからずっと神田で過ごしているわけですね。

やはり、ここは「世界一の古書店街」ですね。
編集者にとってはいろいろな意味で刺激があり、勉強できるエリアだと思います。

最初のお仕事は?

吉田東伍『増補大日本地名辞書』第6巻「坂東」の相模と江戸の部の校正でしたね。

明治の碩学の文語文の古典でして、見たこともない漢字が次から次へと出てきて、目が眩むようでした。

編集でのエピソードは?

『地名辞書』の編集チームをまとめたおられた編集部長青池竹次さんには、多くの知識と編集者としての在るべき姿というか、教示を受けました。その後の仕事のベースになったように思われます。

絵本など、児童書も手掛けられたとか。

74年から4年間ほど、児童書部門を担当し、主に絵本を編集していました。
たとえば、アーノルド・ローベル/牧田松子訳『いろいろへんないろのはじまり』、モーリス・センダック神宮輝夫訳『かいじゅうたちのいるところ』、安野光雅『かげぼうし』。キャサリン・ストー/猪熊葉子訳『マリアンヌの夢』などです。

その後、翻訳ものや写真集など一般書も手掛けられていますね。

開高健『言葉の落葉』や『東京風俗志』、伊藤正雄『心中天の網島詳解』、ハリー・ケスラー/松本道介訳『ワイマル日記』、写真集では、エドワード・スタイケン編『人間家族 The Family of Man』、ケン・キージー岩元巌訳『カッコーの巣の上で』などですね。

三陸書房の設立は、どのような想いから?

それは、社の理念として掲げています。つまり、日本および日本人の現在について考え、問いを重ねつつ、その実りを出版活動を通じて表現していきたいと考えています。

日本語表現を追求し、日本語の伝統を尊重するということでもあります。

主にどのような分野を取り扱っていますか?

歴史、芸術、思想、哲学、科学、西洋の古典や宗教などですね。

初めての刊行物は何でしたか?

1998年に、荒井良雄編『英語文化手帳1999』が最初の本です。

2000年には、初めての単行本、川島重成『イエスの七つの譬え─開かれた地平』を刊行しました。

出版の活動をどのように思われますか。

私どものような「本づくり」は、決してコスト・パフォーマンスがよいとは言えません。

しかし、出版はビジネスとして捉えきれないと思います。
私は、出版は文化であって、「流行」より「不易」を重視したいと考えています。

だから、書き下ろしを主体にします。ベストセラーよりはロングセラーを志向します。

高度に専門的な書物も、一般の人々によく理解されるために工夫します。時流は、機械製本や並製に流れているのですが、頑固にまた丹念に、1点1点を大切に、装幀・造本を心がけています。

最後に、何かメッセージを。

メナンドロス/テレンティウスの言葉に、次のようなものがあります。

「私は人間だ、だから人間的なことで私に無縁なものは何ひとつない」。









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