本のソムリエ|電子書籍をつくる|WASEDABOOK
























新潟の空模様を気に掛けながら、
電子ブックの先端を走り続ける。
紙の本と融合するのか、
電子出版市場の可能性は、
ミックスペーパーのこと、あるいはグーグルのこと。
東京高田馬場オフィスに高野寛嗣氏を訪ねた。






2010年は、電子書籍元年とか叫ばれました。どんな一年でしたか?

ミックスペーパー自体は2009年の4月にスタートしたんですね。

当初は思っていた以上に電子書籍といった言葉に皆さん鈍感で「電子書籍イコール出版ビジネス」みたいな感じで捉えている人が多くて、出版業界以外の人は自分のビジネスには関係ないみたいな感じだったんですね。

なので、電子出版以外でも電子書籍は使えるんですというところから説明してましたね。

全部紙に印刷しているパンフレットとかカタログなんかを、一部でも電子書籍に置き替えるとコストダウン、効率アップに繋がりますなんて感じでゼロから説明して、ようやく半分くらい何となく伝わっているのかなぁと、そんな感じで啓蒙活動みたいなことをしてたんですね。

それでも、自分のビジネスに置き換えて考えられる人は非常に少なくて…というような1年間だったかなと。

これが2010年に入ったら急激に変わってですね、電子出版以外でも電子書籍は使えるんだということが我々が言うまでもなく世間的に浸透していて、話がスムーズに進むなぁと、言葉のパワーって凄いなぁと。

また、出版社の反応もですね、2009年の段階だと電子書籍の弱点を見つけよう、粗探しをしようみたいな否定的なスタンスの方が多かったかなぁと(笑)。

「紙と電子の対決」みたいな構図で捉えていて、参入しない理由、採用しない理由を探そうみたいな態度をされる方が比較的多かったんですけど、2010年に入ってからは電子書籍はもうヤルしかないって感じになりましたね。

じゃあ、やるんだったら、どこと、どういう形で、自分たちはどういう関わり方をするんだと前向きに考えてもらえるようになってきて欠点だけじゃなくて利点も含めて純粋にサービスとして評価してもらえるようになった感じがしましたね。



構造的な出版不況の中、起爆剤とか、既存出版の危機説も取り上げられたり。
既存の出版についてどう思われますか? ショックを与えるものか、融合できるものでしょうか。

ひとつ言えるのは紙の媒体というのは絶対無くならないと思っています。

電子書籍のビジネスをやっていると勘違いされるんですけれど、少なくとも我々は紙で出版ビジネスをやられてきた方々、出版社、編集者、取次、書店なんかはリスペクトしてますし、取って替わろうなんて考えてないですね。

ただですね、じゃあ、このままでいいのかとなると、そうではない部分もあるよねぇと。例えば、インターネットが普及しはじめたときも、やっぱり、既存のメディアは敵対的な反応をされていたと思うんですよ。新聞社だったり、テレビ局だったりとか。

でも、10年、15年経ってきたなかで共存できるところはあったじゃないですか。電子出版についても同じように共存できるところが見つかると思っていますね。

融合の方向へ向かうと?

そうですね。共存できると思います。
もしかすると補完しあう部分もあるかもしれない。

ミックスペーパーの立ち上げの経緯について教えてください。

最初はですね、5、6年前になるんですけれどアマチュアのマンガ家がオリジナルのマンガを投稿できるサイトを立ち上げたんですね。

そのときに、投稿してもらったマンガをどういう風に掲載していくかということになったんですけど、もちろん、既にケータイコミックは普及していましたし、1コマずつ見せるというのも当たり前だったんですけど、そこはやっぱり、何十年と続いてきたマンガ表現に対するこだわりというか、ページをめくると時間軸が替わるとか、場面が替わるとか、そういうマンガらしい表現というのは外したくなかったし、マンガ表現の根幹はページめくりにあると考えていたんですね。

そこで、既にあった電子書籍ソリューションを調べてみたんですけれど、初期費用が高いとか、ランニングコストが高いとかで、なかなか導入に踏み切れなかったんですね。

それでやむなく、友達の会社と一緒に自分たちでページめくりできるビュワーを開発したんですね。これは本当に致し方なくだったんですけど。

それは、今もあるんですか?

はい、「マンガ読もっ!」というサイトでなんですけど、いまだに当時開発したビュワーを使ってます。

そのビュワーがですね、結構、評判が良かったんですよ。サイト自体は不備な点があったりして色々言われたんですけれど、ビュワーだけは良いよねと、そんなことを最初から結構言ってもらえたんで、自分たちでも何となく良いビュワーなんだなぁなんて思っていたんですけど。

そのうちマンガとは関係ない企業からこのビュワーを使って自社のパンフレットを自社サイトに載せたいみたいな問い合わせが増えてきたんですね。

そのときに、自分たちが経験したように電子書籍ソリューションを探してるんだけど、高価で使えないという人たちは意外に多いんじゃないかって気づいたんですね。

あとは、いまだにそうなんですけど電子書籍のデファクトスタンダードって無いなぁって、動画配信と言えばYouTubeとか、検索と言えばGoogleみたいな感じで、電子書籍と言えばとなったときにパッとサービス名が出てこないことに気づいたんですね。

それが2007年の終わりでアメリカで最初のキンドルが出た頃の話なんですけど、価格で困っている人がいるんだろうし、デファクトスタンダードが無い分野ってことは、実は参入の余地があるんじゃないかなぁって感じで。

最初はパッケージ化された製品として企業向けに作るか、みたいなアイデアもあったんですけど、どうせやるならウェブサービスにして法人とか個人とか関係なく誰もが使える方が面白いし、これまで幾つかウェブサービスを運営してきた自分たちらしいかなと思って企画を作り始めた感じでしたね。

その辺りは、個人とか中小企業も手が出せる価格でサービスを提供すれば利用者を増やせるんじゃないかっていう思惑もあって。

結局、これまで電子書籍がなかなか広まらなかった大きな理由がコストの問題じゃないかと。それこそYouTubeが広まったことで、個人も法人も関係なく動画配信の障壁はかなり下がったと思うんですよね。

それによって新しいクリエイターが登場したりとか、新しいビジネスが誕生したりとか、新しい展開も生まれていると思うんですね。もし、そういうことが電子書籍でも起きたら、面白いんじゃないかなぁという風に思って始めたんですね。

社名のミックスペーパーってどういうところから付けられたんですか?

再生紙っていう意味があるので英語圏の方には違和感がある言葉だと思うんですけれど、ビュワーを一緒に作ったp&m社のスタッフが色んなメディアをミックスできる媒体にしたいということから付けましたね。



高野さん自身、技術者ですが、電子ブックの技術的な到達点、可能性をどう見ていますか?

正直、ミックスペーパーも採用しているページをめくる表現形態の電子書籍って鬼っ子だと思っているんですね。

例えば、テレビでは動画を見ますよね、ラジオでは音声を聞きますよね、そう考えたときページをめくる表現形態というのはデジタルデバイスになじまないんじゃないかって思ってるんですね。簡単に言うと読みにくいなぁと。

パソコンとかスマートフォンを通じて情報を発信するのであれば、普通のウェブサイトでも事足りるなぁと思っているんですね。

必ずしもページめくりのインターフェイスはいらなくて、ブログみたいな体裁の方が情報としては伝わりますし、それこそ電子書籍でもePub形式でいいんじゃないかと思うんですよ。

そう考えるとミックスペーパーで提供しているページがめくれるっていうインタフェースは、非常に歪な存在なんすね。じゃあ何でやっているんだとなるんですけど、紙で配信してきた情報を電子に置き換えるとなったときに必要な編集、デザインができる人っていうのが実はあんまりいないなぁと感じていまして。

例えば、読みやすい紙媒体って、いっぱいあると思うんですね。街で配られているチラシなんかでも、そこに載っている情報が読みにくいっていうのはほとんど無いと思うんですね。読みにくい新聞ってありえないじゃないですか。

でも読みにくいウェブサイトって結構多いですよね。一般の人が普通にインターネットを利用するようになって15年くらい経ってるんですが、ウェブサイトで情報を最適に発信する編集スキル、デザインスキルというのは、まだまだ蓄積されていないなぁと。

もちろん、そういうスキルを持つ会社もあるし、人もいるんですが絶対数が少ないんですね。そうすると、今まで紙で配信していたものを電子に置き換えますといった作業を、出来る人がほとんどいない。いても高コストであるという問題があるんですね。

とはいうものの、じゃあ今までどおり、紙だけで配信すれば良いのかということになると、それは違うと思うんですね。電子でも配信していった方が良いと思うんですね。そこで、折衷案と言いますか、過渡期の形態としてページめくりの表現があるかなぁと思うんですね。

今までと紙の書籍と同じ表現形態でコンテンツを作れるのであれば、紙の分野に蓄積されている質の高い編集スキル、質の高いデザインスキルを活かすことができるかなぁ、出版業界の人材を電子書籍の分野に引っ張ってこれるかなぁと考えたんですね。

それと、本の役割って情報を伝えるだけじゃなくて、情感を伝えるってのもあると思っていて、そうするとブログみたいな表現形態よりも、ページをめくって読み進むという形態の方が合っているかなと思いますね。

それで、話を戻して到達点なんですけれど(笑)、今ですらこんな状況なんで分からないところはありますね。

2、3年後先は読めていますか?

正直、数ヶ月先も見えていないという感じで(笑)。

ただ、フットワークは軽くしておいて時流に乗り遅れないようにはしたいなぁと、それで電子書籍ならミックスペーパーという風な感じにはなっていきたいですね。

電子書籍ビジネス全体としては、一部の美術書なんかを除いて紙で売るなら電子でもっていう風になってほしいなと。




音はやらないんですか?

音声を埋め込むとか、動画を埋め込むっていうのは技術的には今でも可能ですね。じゃあ、何故それをしないのかということなんですけれど、さきほども言ったように、電子書籍ビジネスは過渡期だと思ってるんですね。ということは新規の利用者ばっかりの状態なんですね。

そのうえ、我々のサービスは低価格で提供しているつもりなんですけれど、その理由が利用者自身にコンテンツを作ってもらうというサービスだからなんですね。そういう状態で複雑なこと、例えば音声を埋め込む、動画を埋め込むという作業をやってもらうのは大変だろうなと。

電子書籍って何?っていう人たちに対して音声を埋め込めるんです、動画を埋め込めるんです、でもその作業は自分でやってくださいと言っても難しいだろうなぁと思いまして。

ミックスペーパーはまだ第1フェーズだと思っているんですけど、今は紙の書籍をそのまま電子化できますという段階なんですね。その作業はすごく簡単で、1ページ1枚の画像ファイルとして用意してください。

印刷会社に入稿するデジタルデータを整形しても良いですし、印刷された紙媒体をスキャンしても良いんですけれど、とにかく用意した画像を1冊分まとめてミックスペーパーにアップロードすると見開きの電子書籍になりますと。これであればやってみようかなという人が出てくると思うんですよ。

まずは、電子書籍を作るということ、配信するということ自体に慣れてもらう。その第1フェーズがあったうえで、電子書籍に音声や動画を埋め込めますという風に発展させていきたいなと、市場を育てながらサービスも育てていきたいなぁと思いますね。

今、ターゲットはどの辺に置いているのでしょう?

法人、個人問わずですし、ターゲットは絞り込んでいないですね。
出版業界も、そうではない法人も、個人も含めて使ってくださいという感じですね。

手ごたえがありますか?

何年かのうちに実現すれば…ぐらいに考えていたんですけど、ミックスペーパーを始めた直後に個人がフリーペーパーを載せてくれたのは、すごく嬉しかったですね。

中にはミックスペーパーを知ってフリーペーパーを創刊しましたって人もいて、それは個人的には目標を達成した!みたいな(笑)、サービスを始めた意義はあったなって感じでしたね。

法人で言うと、もちろん、出版業界に使ってもらうのも嬉しいですけど、製造業の会社とかがカタログを載せてくれたりするのは、我々のやりたいことを理解してくれているみたいなところもあるんで嬉しいですね。




ブームの中核にいるわけですが、電子出版はこれからどこへ向かうと予想されていますか?

市場規模で言うと、紙の出版に比べて電子出版はそこまで大きくならないと思います。紙の出版は斜陽といえども相応の市場規模があると思うんですけど、同じ規模までは行かないんじゃないかなと。

ただ、同じ規模にならなくてもビジネス的に問題が無い程度の市場規模に成熟すると思いますし、面白い展開が期待できる分野になるんじゃないかなと思いますね。

また、電子書籍が普及すると紙の書籍が売れなくなるという風に言われることもあるんですが、それは無いと思いますね。紙を買う人は紙を買う、電子を買う人は電子を買うといった感じで、そもそも顧客層が違うと思うんですよ。

結局、今までは紙の書籍しかなかったので、紙の書籍を買うか、買わないかの二択しか無かったと思うんです。それが、電子書籍が加わった三択になって今まで取りこぼしていた顧客を拾えるようになる可能性もあるかなぁと。そうすると、出版ビジネス全体で考えると成長する可能性もあるんだろうなと。

競合するライバルについては想定されていますか?

ライバルはグーグルですね。それ以外は競合とは思ってないですね、サービスの形態が若干違っていたりするので。

グーグルに関して言うと根本的なモデルが比較的近いうえに、企業の規模が圧倒的に違うのでグーグルの電子書籍サービスが広まると、我々のサービスはかなり危険なことになると考えています。

ただ、幸いなことにグーグルはやり方が強引なので、日本の市場には受け入れられないだろうと期待しています(笑)。我々は良い意味で日本的にやっていきたいなぁと。

他のサービスは無視しているわけではないんですけれど、サービス提供に関する思想がちょっと違うんでライバルということではないのかなと思っていて、一緒に電子書籍ビジネスを盛り上げていければと考えています。

ミックスペーパーが目指しているゴールとは?

やはりデファクトスタンダードにはなりたいなぁとは思っていますね。
電子書籍と言えばミックスペーパーと言われるようになりたいですね。




ところで地元と東京を頻繁に往復していますね。
新潟から仕掛ける面白さってありますか?

マイクロソフトってシアトルじゃないですか。シアトルって雨が多くて、曇りが多いじゃないですか。それで、田舎ですよね。そこに本社があっても世界的な企業であると。

新潟の空を見上げるとやっぱり曇り空なんですよ(笑)。ここから世界的な企業なのか、日本を代表する企業なのか分かんないですけど、ちょっと面白いことしている会社が出てきたら、みんなびっくりするよねみたいなところはあって。

たぶん、新潟でやっても東京でやってもそんなに差はないんですけれど、びっくりされる度合いは大きいので(笑)。

今後の計画とか、夢とか、お聞かせください。

ファンタジスタが立ち上がった経緯からなんですけど、弊社代表と私の前職は専門学校の講師なんですね。そこで人を育てるとか応援するっていうのは達成感があるし、やり甲斐のあることだなと感じていたんですね。

ただ、年齢を重ねるとともに、それは学生との年齢差が広がるってことなんですけど、授業以外の方法でも若い人を応援するとか育てる方法ってあるよね、というところから話が始まっているんですね。

基本的に20代で出来ること、30代で出来ること、40代で出来ることって、だんだん大きくなっていくと思うんですけど、30代、40代を迎えた自分たちが若い人たちを応援したいっていうときに、一つ、金銭的な支援っていうのもあるんじゃないかなと。

お金が全てとは考えていないんですけれど、お金があるからこそ出来ることもあると思うんですね。お金の心配をしなくていいからクリエイティブな活動に没頭できるみたいな。

1年間生活していけるお給料なのか、何なのかとにかく生活を保証するから、面白いことやってよ、好きなことやってよっていう応援の仕方もあるよね、そういう風に使えるお金が欲しいよねっていうところがあったんですよね。

それは弊社の創業理念一つ「人を育てる」というものにも繋がっていますし、その辺りは私の理念でもあるというか、やっていきたいところでもあるんですね。

そこで、このミックスペーパーという事業を大きく成功させていって、そこで得た収益をそういう形で、何かクリエイティブな分野で頑張ろうとしている人たちを応援できるような形に繋げていきたいなぁとは思っていますね。

具体的には?

弊社の屋台骨は3DCGの制作部門なんですけど、まずはそこのスタッフに1年あげるから好きな作品作っていいよって言ってあげたいなと。そうすると会社的にはやっぱりお金の問題っていうのが出てくると思うんですね。

若いうちはお金のことをあんまり考えないで、夢を見る方に力を入れた方が良いと思うんですけれど、30代、40代ともなるとシビアにそういうところを見ていかないと駄目だなぁと思っていて。

個人的にお金が欲しいとかはあまり思ってないんですけれど、ただ、応援したいときに余裕がなくて出来ないっていうのは、ちょっと寂しいよねと。

今はまだ会社もサービスも自分も応援してもらっている段階なんですけど、いずれは応援する側になりたいなと。そうなるためにミックスペーパーを広めていきたいなと思いますね。